昨年(2019年)秋に相次いで日本を襲った台風15号と19号。
千葉県白浜にある割烹旅館「清都」は屋根が吹き飛ぶといった大きな被害を受けた。
さらにその後のコロナ禍発生により改装工事は遅れに遅れるといった度重なる災難に襲われる。
しかし、それらの困難にも関わらず、今年(2020年)7月についにリニューアルオープンを迎えた。

自然災害やWithコロナといった難問、旅館に対する顧客のニーズの変化など旅館業をとりまくさまざまな問題に対し、リノベーションで挑戦している事例を紹介していく。
 
 
 

相次ぐ台風被害とコロナ禍の追い打ち

眺望と料理が自慢の宿「清都」は昨年秋、房総半島を立て続けに襲った台風により甚大な被害を受けた。
屋根や窓ガラスなどが吹き飛ばされ、大規模半壊という罹災証明が下りるほどの被災で、当然営業はできなくなる。


2019年9月撮影

「清都」専務の清都俊仁さんは、すぐにでも改修工事をしようと考えたが、地域自体が全体的に被災しておりなかなか工事業者が見つからず、一時は廃業も考えたという。

しかしトラブルは台風被害だけにとどまらなかった。
なんとか知人から業者を紹介してもらい、年明けからいよいよ本格的な工事がはじまるというときに新型コロナウィルスの流行がはじまったのだ。
世界的流行は観光業宿泊業を直撃した。

その影響は、年明けにすぐにありました。
まず中国で新型コロナの流行がはじまり、改装のための資材が止まってしまい、すぐに工事はできなくなりました。
それで3月末くらいから少しずつ資材が入ってきて工事やっと入れるかなというところで、今度は新型コロナ流行による緊急事態宣言が発令されてしまったのです。

中国から届くはずの資材はストップし、緊急事態宣言の発令で県外から来ていた工事業者は移動ができなくなった。
工事が再開できたのは、なんと6月に入ってからだったという。
そのような数々の苦労を経てこの7月のリニューアルを迎えたのである。

毎年のように大規模な自然災害が発生し、いつ自分の住まいや職場が「被災地」になるかわからない。
復活にむけた清都の事例は多くの宿泊業の方にとって参考になるだろう。
 
 
 

次世代の旅館への思い

当初は単純に元通りに修理して営業再開する予定だった。
しかし新型コロナウィルスの流行で濃厚接触や三密をどう避けるかという議論が起こり、旅館としてのあり方、部屋の作り、導線、全部見直さなくてはならなくなった。

コロナの対応を考えたのは、資材が入ってこないとなった1月2月くらいのときでした。その時点で設計もある程度できていましたし、ガラッと変えたので大変でした。

この新型コロナの流行が終息しても今後も同じような病気が出てこないとも限らない。
また新たな伝染病が発生する可能性がある。
できる限りの対策を尽す理由は清都での滞在を楽しみにしている宿泊客のためだ。

「移動するな」とか、「旅行するな」とかそういうお話もありますけれど、それが趣味の方もいるし、それで息抜きできるから仕事頑張れる方もたくさんいると思うのです。その方たちのために、どうこの場を提供していくか。
それにはやっぱり迎える側も安全を確保すること、迎える準備をしていくことは一番の課題ですね。

実は清都さんが所属する宿泊産業を支える若手が集う「全旅連青年部」では、台風、コロナ以前から「次世代旅館のあり方」について考えていた。
今回のリニューアルは、その研究成果を実際にカタチにする場になった。
これが、これからの旅館のあり方、接客業のあり方をとことん議論されたひとつの答えとなるかもしれない。


専務 清都俊仁さん

 
 
 

プライベート重視、
安全重視の「次世代の旅館」をカタチに

今や日本中、世界中のさまざまな業界で「コロナ対策」が手探りの中で進められている。ここからは、宿泊客とスタッフの安全を考え、また宿泊客の新たなニーズであるプライベートを重視した新生「清都」の改修のディテールを紹介していこう。

非接触とプライバシーの確保

大宴会場を無くし、客室毎にダイニングルームを設置。

まずは間取り図を見ていただきたい。
一般的な和風旅館にはない空間があることに気づくだろう。
まず決めたのは、大宴会場の閉鎖だった。これで他の宿泊客など多くの人がひとつの空間にいることは避けられる。
食事は必然的にそれぞれの部屋でとる「部屋食」になった。さらに少しでも宿泊客とスタッフが接触する時間も減らそうと考えた結果が、部屋内の入口に近いところにダイニングルームの設置であった。

ダイニングルームまで宿のスタッフが入り給仕を行うが、そこから先のリビングや寝室には基本入らないプライベートエリアとなる。

またベッドの導入も今回のコロナ対策の一環。
客の滞在中にスタッフは寝室には入らないので当然布団を敷くことができない。そのためベッドの設置が必須であった。
ベッドとすることで、スタッフの負担が軽減できた。

また、お風呂については各部屋に半露天を設置。大浴場を閉鎖することなく宿泊客の利用を分散し混雑を防ぐ体制を整えた。
部屋で半露天のお湯に浸かることも、大浴場で宿こだわりの死海塩風呂に浸かることもできる。

本当は各部屋に露天風呂を作りたかったんですけれど、やはり昨年の台風の教訓がありまして今回窓のついた半露天という形になりました。
風がある日でも楽しめるお部屋のお風呂というのをコンセプトにしました。
やっぱり露天風呂だと風があったら寒いし、もちろん冬も寒いので露天風呂を敬遠することもあるでしょうけど雨のときでも、風のときでも、さむいときでも入れるお風呂、窓をあければ開放感のあるというお風呂にしました。

また宿泊客と接するスタッフの数を減らすため、各部屋にひとりのスタッフを専属スタッフとして対応する方針だという。
こういったさまざまな細かな配慮から「清都はクラスターの感染源にはならない」という思いがひしひしと伝わってくる。

せっかく楽しみに来ていただいて、いい思い出を持って帰ってもらえたのに、そういった感染源だったということになったら我々もつらいですし、お客様にも嫌な思い出になってしまいますので。

実際、今回感染症対策を徹底するため大宴会場での食事などを廃したことやスタッフ配置の工夫などで接する人間が最小限となる、プライベート空間を楽しむ宿というのを実現している。
これからの旅館のあり方、接客業のあり方をとことん議論されたひとつの答えなのかもしれない。


割烹旅館 清都
住所:〒295-0103 千葉県南房総市白浜町滝口6241
TEL:0470-30-5030

この記事をシェアする

facebook

twitter

line

pinterest